協力隊インタビュー
| INTERVIEW |
観光振興分野 菅野睦子さん
陸前高田の「まち」と「人」が好きだから

神奈川県横浜市出身の菅野睦子(かんのちか こ)さんは、2023年4月に陸前高田市観光物産協会に着任しました。観光情報の発信を中心に、SNSの運用や動画制作、さらに、高田松原海水浴場ではライフセーバーとしても活動するなど、多岐にわたる仕事に取り組んでいます。
「陸前高田の方々が好きで、皆さんがより良く生活できるよう力になりたい」と笑顔で語る睦子さん。都会で生まれ育った彼女が、なぜ遠く離れた三陸の地に飛び込み、地域と深く関わる道を選んだのか、その理由に迫りました。
「心が動く方へ」と 動いていった先に出会った陸前高田市
睦子さんが東北に興味を持ちはじめたのは小学校のころ。
東北の復興支援に積極的だった担任の先生の影響を受けたことがきっかけです。
転機となったのは2018年。
フォトジャーナリスト・安田菜津紀さんが主催する「東北スタディーツアー」への参加したことでした。
このツアーに参加できるのは全国からわずか10名。
当時高校3年生だった睦子さんは、憧れの安田さんと東北を訪れたいという強い思いから応募を決意します。
小論文を執筆してエントリー、見事そ のチャンスを手にしたのです。
「3泊4日で東北3県を回るスケジュールで、最終日が岩手・陸前高田でした。
陸前高田ではその日、地域伝統のお祭りである『うごく七夕』が開催されていたんですね。
町の人々が心からの黙祷を捧げ、熱い祭りが始まる。
悲しい経験をしたからこその祭りへの思いに、私は泣くほど感動したんです。
初めて訪れた私にも優しくしてくださって、地域の方の”人を思いやる気持ち”を強く感じました」。

宿泊先は、陸前高田を拠点に県外の若者と地元の交流促進と地域活性化事業を行うNPO法人SETの代表・三井さん宅。
そこでの体験も、睦子さんの心を大きく動かしました。
「散歩をすれば近所の方が声をかけてくれたり、夕飯には近所の方からもらったお野菜が使われていたり。
地元横浜では見られない、温かく優しいつながりのあるコミュニティがすごく素敵だなって思ったんです」。
すっかり陸前高田に魅了された睦子さんは、ツアー終了後、大学に進学しながらSETのメンバーとして活動。
月に一度は陸前高田を訪れ、地域とのつながりを深めました。
そして、活動を続けながら陸前高田への移住を目指し、就職先を探し始めます。

大好きな陸前高田のために。 地域おこし協力隊へのステップは 導かれるように繋がっていった
陸前高田への移住を目指して活動していた2022年、睦子さんが大学4年の10月に「地域おこし協力隊」のインターン制度がスタートしました。
陸前高田の観光物産協会でも募集が行われており、睦子さんは申し込むことに。
「大好きな陸前高田の人たちが、より良い暮らしを続けていく ために、観光はとても大切な手段だと考えていました。
観光物産協会では震災伝承のパークガイドの業務もあり、防災にも関心を持っていた私にとって、ぴったりだと思い応募したんです。
実際に働いてみると、職場の皆さんも本当に温かく働きやすい環境で、自分がやりたかったことと、仕事の内容がしっかりマッチしていると実感できました」。
その後、インターンを終えた睦子さんは、2023年4月に地域おこし協力隊として陸前高田市観光物産協会に着任しました。

今ある課題を正しくとらえ、一つ一つ丁寧に解決していきたい
地域おこし協力隊での活動で捉えたこと
地域おこし協力隊・観光振興分野で配属になった睦子さんのミッションは
・観光情報発信
・観光コンテンツの創出
・地域ブランディング
・イベント開催
です。
中でも観光情報発信ではInstagramの投稿に力を入れており、旬の食材や市内の飲食店のおすすめメニュー、連休のイベント情報などを、豊富な写真・動画や生産者の思いを交えてわかりやすく紹介しています。
「SNSのターゲットは、陸前高田から車で片道2時間圏内にお住まいの方。
盛岡や仙台などの方が、『お出かけに陸前高田に行こう!』と思える内容を意識し、”食”をメインに発信しています。
『Instagramの投稿をみてお客さんが来てくれたよ!』というお店の方の声を聞くと嬉しくなりますね。
また、フォロワーさんから『このイベントはいつ開催されますか?』などとDMをいただくこともあり、きちんと皆さんに届いてるんだなと実感できています」。
陸前高田市観光物産協会Instagramはこちら

過去には陸前高田を象徴する山「氷上山」の山開きで地元名物のホルモン鍋をふるまうイベントも開催したこともあるのだとか。
また、陸前高田市観光物産協会では観光名所である「高田松原海水浴場」の普及にも力を入れています。
睦子さんも、地域おこし協力隊に着任してすぐにライフセーバーの資格を取得。
海とお客様を見守る業務の他、手ぶらBBQエリアの運営や浮き輪の貸し出しなど、様々な方面から高田松原の盛り上げに力を尽くしています。
「高田松原は、2024年の5月に国際環境認証制度である『ブルーフラッグ』※1を取得しているんですね。
世界基準でみてもきれいで安全で誰もが楽しめる優しいビーチと認められているのですが、車椅子で来ると駐車場から浜辺まで遠いなど、まだまだ課題があります。
これは地元の事業者さんの協力を得ながら一つ一つ丁寧に解決していきたいですね」。
※1ブルーフラッグ…国際NGO FEE( 国際環境教育基金)が実施する国際環境認証。
水質、環境マネジメント、安全性とサービスなど33項目の認証基準をクリアして取得できるもので、毎年審査を受け更新する必要がある。
岩手県では高田松原海水浴場が初で2024年から2年連続取得。

地域お こし協力隊に着任して2年。
今の自分に点数をつけるなら「60点かな」と睦子さんは振り返ります。
その理由は、「地域を知ることや地元の方との関係性づくりに時間を割きすぎて、形になるものを作れていないから」。
「協力隊の先輩は、地域の生産者さんとコラボして『トレイルエール』というビールや関連グッズなど、直接観光消費につながるものを制作しているんですが、私はそれができていない。
任期3年で形になるものを作るには、事業の把握や地域との関係性づくりをもっと計画的に行う必要があるんだなと思いました。
最後の任期であるこの1年で、海水浴場に売店を作り高田松原のロゴTシャツを販売するなど、消費につながる成果を出していきたいです」。
これから地域おこし協力隊を目指す方へのメッセージ
これから地域おこし協力隊にチャレンジしようと考えている人の中には、知らない土地で受け入れてもらえるか、経済面、生活環境の変化に不安を抱える人も多いでしょう。
移住するにあたって自分の不安をある程度つぶしてきた方が、その後の暮らしもより良くなるのではと睦子さんは話します。
「私は、移住するにあたって抱えていた不安をリストアップし、全て潰してから来ました。
例えば経済的にどのような暮らしができるのかイメージが持てなかったときは、移住している先輩に聞いたり、陸前高田の協力隊の様子を聞いたり。
住まいに関しては、陸前高田のシェアハウスを活用していた時期があるので、協力隊に受かる前から相談していました」。
「『なんとかなる精神』もとても大切ですね。
陸前高田に長く住みたいと思っていた私は、先輩移住者に地域での子育て事情も伺ったのですが、『まあ結局はなんとかなるよ』と仰ってくれて。
その言葉が、移住を決意する大きな後押しになりました」。

”人を思いやる心”がある陸前高田の人々。
支えてくれる方がたくさんいるので、安心してきてほしいですと、睦子さんは笑顔で答えてくれました。